トイレの神様‐いいえ、ただの野次馬です‐



「それから3日後くらいだったかな、そのことが広まってて、でも、伊藤君もまんざらじゃなさそうだったから、勇気を出して告ったのに………。あたしをフったのよ!信じられない!」



「見る目ないね、その男」



「でしょ!あんたイケメンだし、あたしの彼氏になってよぉ?」



甘えた声で、豊満な胸を浪瀬の腕に押しつけ、上目遣い。


浪瀬はやんわりとそれを外す。



「俺はしがない下界の住人。君とは住む世界が違いすぎる」



「そんなことないよ!あんたはあたしの隣にふさわしいもん!」



「天使が俺なんかに誘いをかけるのも、トイレの神様のせいなんだね。恋を叶えるはずなのにフラれるなんて………許せないね」



「そうよ。伊藤君は噂が恥ずかしかったからフったんだわ」



「岡田夢菜も神様に相談したそうじゃないか」



「ええ、そうよ」



「なんでも、平井美友って子が広めたらしいけど」



瞬間。

媚びるものから、憎しみのこもったものに。


平井美友の表情が変わった。




「……嘘つき」



同様に浪瀬も壬生科乃の仮面を外す。



「大逸が岡田夢菜をフったのも、恥ずかしかったから?」



態度を180度変えた平井美友は、ケッと吐き捨ててから。



「あんなブス、大逸君が好きなわけないじゃん。大逸君はあたしが好きなの。あんなのに好かれた大逸君がかわいそうだから、みんなに教えてあげたのよ」



「へぇ」



「あたし、やさしいから」



悪い笑みを浮かべた、説得力のない彼女の優しさなんて聞いてない。



「誰から聞いたんだい?」



「何のこと?」


「岡田夢菜が大逸を好きだという話」



浪瀬は問うが、平井美友は口角を上げただけだった。



「……岡田夢菜が相談した神様は偽者だ。俺は、その偽者を探している」



「もうどっか行って!」



「……………」



「あたしは何も知らない!2度と顔見せないで!」



「そう。じゃあね」



癇癪をおこしだす平井美友から潔く引いた。


教室を出て、来た道を戻る浪瀬を無音で追う。



平井美友から十分に距離をとったところで、称賛の声をあげた。



「お見事でした」



「まぁな」



浪瀬の働きを見て思った。



「ハニートラップ、私にはむいてないわ」



「ぶりっこ野枝だって、十分ハニートラップだろ」



「女相手だと敵認定不可避」



「それ、ハニートラップとは言わない」



「浪瀬は男相手でも情報聞き出せるじゃん」



「野郎相手にハニートラップしてねぇよ!」



「そう?」



浪瀬ほどの綺麗な顔なら、男相手でもいけそうだけど。



「そんな目で見るな」



それに比べて。



私は男相手だとしても、浪瀬ほど上手くはいかないでしょうね。



あの状況では暗くて顔が見えずらいぶん、声かけやボディタッチが重要になってくる。


私には平井美友のような、押し付けられる胸が……。


胸に手を当てると、悲しくなってきた。



それだけじゃない。



さっきみたいに、一度疑わせて、自ら否定させることで警戒を解かせるなんて芸当も、私には到底無理。


それも、無言でやってのけるなんて尚更。


知らないふりして聞き出すのは時間がかかると、衝動的に吐かせるやり方に切り替えたのは、結果的に成功した。


たったあれだけの会話で、幾つの駆け引きがあったんでしょうか。


自然に演じきった彼は、とんでもない化け物だわ。



見上げると視線がかち合い、にこりと微笑まれる。



「次のターゲットに行くぞ」



窓の外を見ると、大きく膨らんだゴミ袋を両手に持つ女生徒の姿。


ゴミ捨て場に向かう岡田夢菜がいた。