トイレの神様‐いいえ、ただの野次馬です‐





校内を浪瀬と並んでぶらぶらしている。


ふたりの間に会話はない。


秘密のデートっぽい?


んな不名誉な称号なんぞ、欲しい奴にくれてやるよ。


噂の翌日公開処刑があった教室を通りかかった時。



「おっ、標的発見」



浪瀬の指した先に、人影がひとつ。



「………なんつー巡り合わせでしょうか」



平井美友がいた。


しかも、机に座り、浮いた足をぷらぷらさせてスマホをさわっている。


いかにもヒマですという空気。


あれ、これ、話し聞くチャンスでね?



「んじゃ、行くか」



先陣を切る浪瀬の手腕、勉強させてもらいます。


私は教室の壁の陰に隠れる。


ハニートラップに女の連れは邪魔だ。
















「どんな素敵な天使が羽を休めているかと思った………」



すべてを包み込むような、柔らかな声は壬生科乃のものだ。


はっと顔をあげた平井美友は目を丸くして、教室の出入口に立つ浪瀬を見とめた。



「…天使だって、あははっ」



「天使だよ」



「…………っ!」



「おや、お気に召さなかったかな?可憐な天使」



演劇調で大げさに動く浪瀬。



「っ、めしためした!」



彼女は一瞬言葉に詰まっていたけど、すぐに明るい調子を取り戻す。


浪瀬は彼女にカツカツ歩み寄り。


「………ここは、下界の寂れたいち教室。俺と天使のフタリキリ」



さあっ、と後ろのカーテンの幕を引く。



「天におわす月にだって、見せやしない」



教室では、ふたつの影が重なった。



「キミのそんな顔、見るのは俺1人でいい」



柔らかな音に切なさを乗せて。



「何か、あったんだね」



一瞬、音が消えた。


たっぷり間を空けて、平井美友が声をこぼした。



「…………わざとらしい」



「何が?」



「あたしが誰か知ってて近づいたんでしょ!何よ、他の奴と一緒で、笑いに来たの!?」



「…………」



「なんか言いなさいよ!」



彼女の怒りとともに、ふたつは弾かれ。



「……………キミはそんなに有名な天使なんだね」



浪瀬の驚きの声とともに、距離が縮む。



「……他の奴らが知ってるのに俺が知らないなんて、悔しくてならない。君の口から教えてくれないか?」



拗ねたもの言いの浪瀬。



「えっ、知らないの?あたしのこと」



「…………」



「あたしのこと知らない人がまだいたんだ……」



怒りを露わにしたのもつかの間。


すっかり毒気を抜かれた平井美友は、饒舌に語ってくれた。



「ほんと恥ずかしいんだけど。………あたしね、トイレの神様に伊藤君が好きだから付き合いたいってお願いしたの」



「うん」