トイレの神様‐いいえ、ただの野次馬です‐






本日最後の授業が終わると同時に、スクールバッグを手に教室を飛び出す。


そして、人のいないトイレに駆け込んだ。


実は弁当を掻き込んでからからずっとお腹の調子が悪くて………。


ではなく。


浪瀬と彼女たちの約束の時間に遅れないよう、準備をしないとだから。


メイク道具と鏡をセット。

安田野枝に結びつかないよう、印象に残らない顔をつくった。

髪は弄らず下ろしたままで。

鏡には、学校に10人中7人はいる平凡顔だが、安田野枝ではないそれが写っていた。


まあ、こんなもんでしょ。


準備を終えトイレを出ると、横の壁に顔を変えた浪瀬が凭れていた。



「ぇと………おまたせ?」



約束してないけど。


だからといって、トイレ前での待ちぶせはいかがなものでしょうか。



「なんつーか、お面みたいだな」



「その例えはどうかと思うんだけど、ありがと」



特徴のない平凡顔目指してメイクしたんだ。

大量生産された顔になれてるという意味でとれば、すごい褒め言葉なんだろう。



「そういう浪瀬も、変装の腕あげたんじゃない?」



「だろー?」



もっと褒めろとばかりに鼻を鳴らす彼。



「おっと、ここは壬生科乃くんと呼ぶべきでしょうか?」



浪瀬の顔は、以前トリプルデートした時に作ったもの。


からかいの笑みを向けると、彼の笑みが黒くなる。

あ、これ逆鱗だわ。

どんな反撃されるかわかったもんじゃない。
撤退。


わざと明るい声で話題を変える。



「さてさて。かの2人とは、何分後のどこで待ち合わせ?」



「約束なんてなくとも、この俺様が声をかけるんだ。話すに決まってんだろ」



「決まってねぇですよ」



つまりは、約束なしの、計画なし。

さっきの女子トイレ前待機といい。



「貴様の嫌な自信はどこから来るのかと、常々思うのです」



「そりゃー、これまでの経験?」



「イケメン爆発しろ」



しれっと言ってのける浪瀬に、殺意に似たものを覚えるのは当然のこと。

でも、謙虚であるなら浪瀬じゃない。

なんていうか、さ。


ため息とともに、握り拳から力を抜いた。



「顔がいいって得だよね」



「何言ってんだ、お前」



何言ってるんだろうかね。

でも、言葉通りの意味ですよ。



「ほらほら、遊んでないで行きましょう」



約束してないなら尚更、早く見つけて時間とってもらわなきゃでしょ。