何度目かの鉄拳を食らわせた時、対象に動きがあった。
「浪瀬」
小声で呼び、揺すり起こす。
「んぁ?」
寝ぼけてる暇はないですよ。
「あれあれ」
「……どれだー?」
緩慢な動作でのしかかってくる浪瀬を押し返しながら、指し示すのはレモンの家の玄関。
すぐ前に停めた黒のバンを降りた黒い3人が、大きめの板を持ってその家に入る。
その様子を浪瀬父のカメラにおさめた。
液晶に撮ったばかりのそれを表示させる。
さすが最新機種、月明かりだけで綺麗に撮れてるわ。
拡大しても、目立つジラつきはない。
キャップをかぶり、黒衣のつなぎを着ていることがわかる。
少し待つと、入っていった人たちが箱を持ち出し、車に積み込む。
そして再び板を持って家に入った。
それらの様子は動画モードで。
なるほど、あの板は潰した状態のダンボールだったんだね。
少しすると、向かいの窓が明るくなる。
動画モード起動。
懐中電灯を持った人物は、引き出しを下から開き、次々とダンボールに詰めていく。
しかし、あるもの全てではないようで、ダンボールに入れたのに、放り出す時もあった。
隣でカシャ、と小さな音。
浪瀬もスマホで撮ったようだ。
人影はすぐに部屋を出た。
「浪瀬うまく撮れた?」
私は早速、彼の写真の出来を覗き込む。
「俺様を誰だと思ってんだ?」
ドヤァと見せてきたスマホには、その人の顔がはっきり写っていた。
「上手いね。よく撮れてる」
「ふふん、だろー」
最後のひと仕事。
家に入っていった3人が荷物を積み終え、車を出すまでを撮り終える。
静けさが戻ってきた。
「………マジでなんかあったよ」
「どんなもんだい!」
浪瀬の漏らした声に、えっへんと威張ってみた。
「不倫じゃなかったけどな」
「夜逃げの現場を見れたヨヤッタネ………」
私もまさか、本当に撮れるとは。
それも、夜逃げの現場に出くわすとは思ってませんでしたが。
それでも結果オーライです。
収穫があっただけでよしとします。
「お前の巡り合わせの良さはなんなんだ」
「日頃の行いかしら」
「人のケツ追いかけ回してたヤツの行いが、そんなにいいか?」
「言い方が悪い。尾行と言いなさい」
「やってる事は変わんねぇだろ」
「気持ちの問題。人のケツ追いかけ回すとかヤメテ、犯罪臭がプンプンよ」
日本語って難しいよね。
でも、言い方ってもんがありますよね。
「結局、金持ちのお隣さんは破産したのかしら」
「知らねぇよ」
「こんな夜中に駆り出されて、引越し業者も大変だわ」
わずか15分足らずで荷運び終わらせるんだもの。
プロって凄いな。
「さーて、目的達成できたし、寝るぞ」
浪瀬が布団を被り、身を横たえようとする。
その着地点に滑り込み、彼を支えた。
「今夜は寝かせないって言ったよね」
「夜逃げの現場見たんだから、もう寝ていいだろ!」
「駄目。私は約束を守る女です」
「約束してねぇし、そんな約束なら今この場で破ってくれても全然構わないし、むしろ大歓迎だし」
私と浪瀬の攻防は、いとも簡単に決着がつく。
「だから寝かせろ」
と、のしかかる浪瀬に潰された。
じたばた暴れても。
「うるさい」
と、一蹴され、抱き込まれる。
間を置かず、浪瀬の寝息が聞こえた。
潰された私は抜け出そうともがくも、ビクともしない。
いつの間にか腰に回った拘束がきつくなる。
顔を横にすれば、そこには浪瀬のお綺麗な寝顔。
私がこんなに必死なのにこいつはもう。
「はぁ………」
少々苦しいのは妥協して、瞼を閉じる。
羊を数えるまでもなく、いつの間にか眠りについていた。


