外は、下手な夕方よりも明るくて、浪瀬家の影がレモンの外壁にかかる。
そういえば、今日はスーパームーンだ。
停電が起きなきゃ気づかなかったな。
窓の位置関係で、月を見ることはできないけど、月明かりの景色というのもなかなかおつなものです。
「野枝」
部屋の主が戻って来た。
人工的な光に目を細める。
「おかえり」
「こんなもんでいいか?」
彼が持って来たのは真新しいデジタルカメラ。
「十分ですよ。いいもの持ってるじゃない」
暗くても少しの明かりで人の顔を認識し、自動的にピントを合わせてくれる代物だ。
望遠機能を使っても鮮明に写るし、動画も撮れる。
動画からお気に入りのシーンを写真として印刷することも可能。
容量も大きく、最大72時間稼働。
と、コマーシャルで言ってた。
「親父の忘れ物だ」
「そうですか」
忍抜きの家族旅行に高級カメラを忘れていくなんて、おっちょこちょいなお父さんですこと。
追い出されて慌ててたのなら、しかたのないところもあるけど。
「………ライト消してこっちにおいで。あ、ベッドの上でのお菓子はおっけー?」
「オッケーだけど、今夜そこで寝るんだからな。こぼすなよ」
「おっけーおっけー」
「信用ならねぇ」
そう言いながらも、お菓子とジュースをベッドの上に運んでくれた。
ついでに箱ティッシュも付いてきた。
ウエットティッシュが良かったなんて贅沢は言わないよ。
「こぼすなよ……」
浪瀬が念を押してきた。
声色が真剣だ。
「心配しないでよ」
私もそれに対して真剣に返す。
「寝かせるつもりは毛頭ないから」
「意味が違う。絶対違う」
彼は肩を落とし、首を横に振った。
「どうして?寝るからこぼされたくないんだよね。なら、寝ないならこぼしても平気だよね」
「とんでもない屁理屈だな。…………何する気だよ」
「それはもちろん………………」
ビシッとレモンの家の窓を指す。
「張り込みよ!」
「はぁ…………。お前はまた変な遊戯を………」
ついに浪瀬は頭を抱えた。


