トイレの神様‐いいえ、ただの野次馬です‐




それからも、適当にウインドウショッピングを楽しんで、夕方。



「んじゃ、そろそろ帰るか」



ようやく私は解放されるらしい。


長かった。


今日一日がものすんごく長かった。



「今日はありがとね」



本当に全額払ってもらったから礼は言う。


お買い上げした袋を持ち、駅に向かおうとしたら。



「どこに行く気だ?」



繋がれた手に引き止められた。



「………どこって、帰るんでしょ」


「俺の家はこっちだ」


「はぁ………だから何?」



意味がわからない。


ここで見送ればいいのかな。


首を傾げていると、答えはすぐにもらえた。



「今日は俺の家に泊まるんだよ」


「誰が」


「野枝が」


「はぁ!?」



初耳なんだけど。



「お母様には話してあるぜ」



お母さん……。

ちょっくら電話して文句でも。



「ちなみにお母様は、お父様と外食するってよ。そのまま実家に顔を出すから娘をよろしくって、快く承諾してくださった」



お母さん………!



ケータイに伸びた手が拳を作った。


鍵持ってきてないから、仮に家の前まで着いたとしても中に入れない。

玄関先で一夜を明かすなんて、心許なさすぎる。



「安心しろ、明日の夜には帰るって言ってたぜ」



ビジネスホテルがどこにあるか知らないし、そんなお金もない。

かといって、他に行くあてもない。


私の選択肢が、浪瀬に提案されたそれしか残されていなかった。



「外堀から埋めるせこいやり方しやがって」


「頭脳派と言ってほしいね」


「貴様なんて、詐欺師で充分」



浪瀬は勝ち誇ったように笑っている。

敗者の私は負け惜しみしか口にできない。



朝のうちに仕掛けられていた罠に、まんまと嵌められたわけだ。


これがバレずにほにゃらら又した男の本気か。


不本意ながら、浪瀬との1日は、浪瀬との2日に変更を余儀なくされた。



「はああぁぁぁ」



盛大なため息を漏らし、気持ちを切り替える。


泊まるなら、ご家族の方に手土産持って行かなきゃ。

何がいいかな。

無難に焼き菓子とか?

おかきも捨て難いし………。



悩んでいると、浪瀬が助け船を出してくれた。



「今日家に誰もいないから。………言いたいことはわかるよな」



「うん。手土産は要らないのね」



親御さんがいないなら気が楽だわ。



「……食べ物もある。身ひとつで来てくれて構わないぜ」



ではお言葉に甘えて。



「そうさせてもらうわ」



あっけなく、浪瀬宅に一泊する事が決まった。