トイレの神様‐いいえ、ただの野次馬です‐







 * * *






「花垣さーん、お客さん」




隣のクラス教室で友達と弁当を食べてると、わたしを呼ぶ声。


ドア近い生徒が指したのは、見覚えのない女子。


目を向けると、お辞儀された。




あの人がわたしに用事?



「ごめん、ちょっと行ってくる」



「行ってらっしゃーい」




女子の平均的な身長、体格。


顔は、下を向いているからよく見えない。




うーん。


近くに寄っても、やっぱり覚えがない。




「………えっと、わたしに用ってなに?」




話しかけると、彼女は肩を跳ねさせる。


うつむいたまま、ふるえる両手で抱えていた、ぺたんこの紙袋を渡してきた。




「これ、羽鳥空って人からのもの。預かりものです」



緊張してるのかと思ったけど、よく通る声をしていた。



はとりとら。

知らない名前。




でも、とりあえず受け取る。




「ありがとう」






気になって、その場で中身を覗くと、空色の封筒が3枚。



これって……。




「待って……っ!」




遠くなる背中を追いかけようと飛び出したところで、誰かの胸に顔がぶつかった。




「…っと、わりぃ」



「あっ、ごめんなさい」




整った顔をした男子が、軽く詫びて横を過ぎる。


その所作の美しさに、目線を持っていかれた。



今のは噂の浪瀬君?

あの浮気バレしても、何故か未だかなりの人気を誇るという、学校七不思議の1つ。




彼の姿が他の生徒に埋もれたところで振り返るが、わたしに手紙を届けてくれた女子の姿は既にない。


もう一度、袋の中を覗き込む。



先ほどと変わらず、空色の封筒が3枚入っていた。



弁当を食べるときに使わせてもらってる机に戻ると、友達から興味津々に質問される。





「星奈何もらったのー?」



「秘密」


「えーっ、気になるー」




なんて言っておきながら、友達の興味はすぐ手の中のスマホに移った。




追求も止んだところで、紙袋の中身を取り出す。



3通の空色の手紙。


表には全て見慣れた『星さんへ』の文字。


中を開く。



1枚は、あの時途切れた返事。


1枚は、返事を出さなかったわたしを案じる内容。




「…………っ!」




最後の1枚は、トイレに置いてきたものだった。




「うそ、ほんとに…………トイレの神様?」




「トイレの神様って、校舎裏の……………って、星奈どうしたの!?」




いきなり話しかけてきた友達が慌てる。




「何でだろう……」




声が震えることはない。


しかし、視界は歪む。


空色の手紙をぎゅっと抱きしめた。