一夜明けて、昼休み。
いつもと同じく、誰もいない音楽室。
お供えされた空色の封筒を眺め、何度目かのため息をついたところで。
「んな難しい顔してどうしたんだよ」
視界いっぱいに浪瀬のお綺麗な顔が写り込む。
「近い!」
「ぶっ……!」
顔と顔の間に手を滑り込ませ、彼の顔をわし摑んで遠ざけた。
「いたいいたい!」
「非力な女子の握力よ」
「急所!そこ人体の急所!」
「身に危険が迫ったら、相手の急所を躊躇わず狙えとは、我が家の家訓でしてよ!」
「俺様は、野枝の敵じゃないって」
「気配を消して忍び寄ったくせに、害がないとはどの口が言うのかな?ん?」
「ギブギブギブ!」
手首をぺちぺち叩いて抗議されたので、手を離してやる。
「あー、俺様の顔無事か?」
「うん、とってもイケメンになったよ」
「そらどーも」
浪瀬はかすかに指の跡がついた頬と目尻をさすっている。
非力な女子が急所を狙った結果は、非力なりのものだった。
「んで、さっきはため息ばっかついてたけど、なんかあったのか?」
さりげなく隣に座り、手元を覗き込んでくる奴。
私は空色の手紙を、浪瀬の逆隣。
自分の体で隠すように持っていく。
「貴様には関係のないことよ」
「……星さんへ?」
「チッ………」
思わず舌打ちした。
あの一瞬で見られたのかよ。
「見ないでくださいー。なんか減るから」
「減らねぇよ。つか、星さんって誰だ?」
「………花垣星奈(はながきせな)」
「ほー、ついに聞くだけに飽き足らず、取ってきちまったわけか」
「違うから。………新しい依頼。これは、奉納、みたいなもの」
「あー、神様業か」
察しのいい浪瀬クンは嫌いじゃないよ。
だからとっとと去ねや。
念を送っているのだが、黙殺される。
浪瀬は涼しい顔で、焼きそばパンの袋を開けた。


