テーブルを力なく拳で叩く彼、浪瀬忍が壬生科乃を名乗ることになった発端は、数日前に遡る。
簡潔に言うと、呼び出され、局地的な豪雨に見舞われた日。
浪瀬を我が家にお招きし、メイクの仕方を教え、今日、児嶋さんにけしかけた。
物分かりのいい浪瀬は私の考えを察し、児嶋さんの彼氏になってくれたということ。
最終的には自主的にデートしたのだから、怒るのはお門違いじゃないかな。
「楽しんでいるように見受けられましたが」
素直に疑問をぶつけてみる。
「どこがだよ、あんなメンバーで楽しめるか」
「お友達が2人も居たのに、冷たいのね。………りょーたくんとたかひろくんかわいそぉー」
「気持ち悪い声出すな。……ダチの浮気相手とトリプルデートとか、どんなバツゲームだよ」
「お気持ちお察しします……」
「パフェ食いながら言われても説得力ねぇから」
「そりゃそうだ。食べることで口の緩みを誤魔化しているのだからな」
「タチ悪ぃ……」
「お褒めに預かり光栄ですわぁ」
昼のピークを過ぎて出て行く客が多い中、4人のグループが来店する。
「…………時に浪瀬君。いつまで壬生科乃の顔でいるつもりかな?」
「あ? すぐに辞めるさ。こんなん、知り合いに見られたくねぇし」
「公衆の面前でフられた可哀想な男の顔ですものねぇ」
「うっせ」
テーブル越しに、手早く浪瀬のメイクを落とし、髪型も戻す。