トイレの神様‐いいえ、ただの野次馬です‐



「はぐれちゃうよ。行こう」



手首を掴まれ、引っ張られるのに、足を踏ん張り抵抗した。




「どうしたの、何か気になるものでもあった?」





壬生君が問いかけてくるのに、首を振って返した。




「違う、そうじゃなくて」



「あ、もしかして、迷子になったふりして帰るつもりだった?」



わたしは返せる言葉もなくて、情けなく下を向くことしかできない。




「そっか……………」




ぽんぽんと頭をなでられる。



目だけ上を向くと、壬生君は微笑みを浮かべていた。




「大丈夫だよ、俺がついてる。忘れたの? 凜がかわいいから、助けてあげたいんだ」



わざとらしく甘い声で、かわいいを強調する彼。



「あれ、もう恥ずかしくないんだ」




初めのうちは挙動不審だったわたしも、何度も言われると慣れるもので、動揺しなくなりました。



「ざーんねん。………さて、これ以上遅れるとホントまずいから、行くよ」




ホントに助けてくれると言うなら、帰らせてください。



なんて言う勇気もなく、手を引かれ、同行者と合流した。



初めからそこに居たように席に着き、自然に会話に混ざる壬生君。

凄い。




「………だよね、凜」



「へっ…!?」



いきなり話しを振られたけど、一切聞いてない。


壬生君、なんてことしてくれちゃうんですか。




「児嶋さん居たの? もう帰ったかと思った」





あからさまな上坂さんの挑発にうつむく。


ええ、ええ、さっき来たばっかりですよ。

帰ろうとしてましたよ。



帰っていいなら帰っていいって、言って欲しかった。




ここで、遠慮なく帰らせてもらいます、と、口に出せたならどんなにスッキリするでしょうか。


報復が怖いので出来ないけど。




「美男美女の中にアンタみたいなブスが1人混ざるだけで、団体の質が落ちるのがわからないの?」




昼時のフードコートの真ん中で、上坂さんが大声をあげる。



言外に帰れと言われてるのがわかる。

でも、本当に帰っていいのかな。

帰ったら帰ったで難癖つけられたりしないかな。




上坂さんの言うことに注意しながら席を離れようとすると、わたしに合わせて壬生君が席を立つ。