トイレの神様‐いいえ、ただの野次馬です‐

「安田ー、授業始まってるから起きろー」



教師の声で、私は顔を伏せたままむくりと上体を起こす。


こうして、今日もまた、変わらない日常が始まる。







* * *




休憩時間。


私は大きめのポーチを持ち、痛む腹を押さえながらトイレに入る。



鍵をかけ、フタの上に座り、ポーチを開く。



そうしている間にも頭の中を占めるのは、浪瀬忍ただひとり。





本当に私が本命なら見返りを求めるでないですよ。


第一、私が目立ちたくないことくらい、奴は知ってるはず。

にも関わらず、大衆にさらすことをした。

ということは、答えはひとつ。



スケープゴートにしやがりましたね。



何度考えても、3日前と同じ答えに行き着く。



お前が本命だ、なんて魔法の言葉に騙されたつもりはないけれど。

なんやかんやで奴に甘い私が憎い!




飛び火して、自己嫌悪もどきに考えが行きかけたところで、耳が近づく足音をふたり分拾う。



私は音を立てないよう、ポーチの中身を開いた。


そして、本来の使用用途をするように持つ。




やがてトイレに入ってきたふたり組は、がたがたと騒がしくし、蛇口を捻る合図の後、私の真上から大量の水が降ってきた。