なんてもの見せてくれたのよっ。
怒り任せに平手を叩き込もうとすると、踏み込んだ足の下から小枝の折れる音が大きく鳴った。
気付かれたっ……。
つい絡み合う2人を見ようとするより先に、手を強く引かれ、木の陰に身を隠した。
正面から抱きしめられる形になって、離れようともがくと、腰に回された腕に強い力が込められた。
「今動くとバレる。大人しく俺様に抱かれてろ」
耳元で囁かれ、ドキッと心臓が跳ねた。
なんつー声してんのよ。
少しでも気を抜けば腰砕けになりそうな、ハスキーエロヴォイス。
「し、しかたないからこのままでいてあげる」
「はっ、何様のつもりだよ」
「耳元で話すなくすぐったい」
「はいはい」
浪瀬がくすりと笑ったのを最後に、私たちの間で会話はなくなった。
すると聞こえてくるのが、花火の上がる音と虫の声と、あの声。
恥ずかしくてドキドキ。
抱きしめられる腕の強さと、ぬくもりにドキドキ。
こんなに近かったらきっと浪瀬にも聞こえてる。
目の前の壁、もとい浪瀬の胸に頭をすりつけると、伝わってくる鼓動。
あ、こんな傍若無人な俺様でも心臓は動いてるんだ。
しかも、私と同じくらい早い。
浪瀬の鼓動を聞き続けているとなんだか安心して、いい意味で力が抜けた。