あれは、わたしが塾の講師として働き始めて、まだ間もない頃。

「教室にいるときの僕は、いわば俳優です。」

180を越えた長身は、痩せぎすの体を際立たせ、痛々しい。

銀縁眼鏡の奥の一重の瞳を、今にも消えそうな三日月形に歪め、笑う。


「常に、なりたい自分をイメージして・・・」

言葉を続ける上司の顔を、無表情に眺めていた。

時折まぶたが痙攣するのは、笑顔に反し、彼が居心地の悪さを感じている証拠だ。


オブラートに包まれては、いた。

けれど、彼の言いたいことは、明白だった。

【生徒ノ前デハ演技ヲシロ!】

自分の全てを、否定されたような気がしていた。




「何歳なの?」

生徒というのは、なぜか教師の年齢を知りたがる。

「98歳だよ。」

おどけて答えるわたしに、嬉しそうに子供たちがまとわりつく。

23歳。

年齢を、重いと感じ始めたのは、いつだったろう?

「すごい年齢!」

「ばばあだね!」

こちらの気持ちなど、考えもしない。

子供たちの、無邪気な残酷さが、憎らしい。