彼女は固く口を噤んだまま、音もなく泣き続ける。

 困り果て、もう俺まで泣きそうだよ……と、今度こそしゃがみかけたとき、橘が、嗚咽の合間から何かを言った。

 潤んだ瞳が和也に語りかけてくる。

 何が何でも声を拾おうと、和也は全身で耳をすませた。



「……好きなの」



 好きなの、ずっと―――……。


「え…………」


 橘の眼差しは、まぎれもなく和也ただひとりを貫いている。



「好きなの。井之口くんのことが、ずっと前から好きだったの……―――」