コツン、コツンと音を立て
少しばかり高いヒールを鳴らせば





店内の一番奥にある黒いシートのカウンター席へと目をやる。



あそこが私の目的の場所。

私は迷う事なくそこへと一直線に進むと、ゆっくりと、腰を下ろした。




カウンターの机は、少し光沢のあるグレーの石で出来ていて

その冷んやりとした感覚が、私の緊張をゆっくりと溶かしていく。




店内に人は数人しかいない。




私と同じカウンターに30代ぐらいの男性が一人、





後ろのボックス席に女性が二人。





「ご注文は」





そして目の前にいるバーテンダーが一人。






「…………ブラックコーヒー」






普通ならBARでブラックコーヒーを頼むなんてどうかしている。




だけど、目の前に立つバーテンダーは何の不信感も持つことなく「ブラックコーヒーですね」と低い声を出すと、そのままグラスにブラックコーヒーをそそいだ。