旦那が家を飛び出していてから
もう、2時間は経つかもしれない。
私は狭い六畳一間の部屋にへたり込んでいて
今にも死にそうな表情を浮かべている自分の顔を
確かめる気さえ起きなかった。
もう3月だと言うのに、冷えた空気が
開けっ放しの窓から入り込んできて
私の全身を冷やしていく。
お腹に手をやると、不思議と気持ちは落ち着いた。
これからの事を考えるのは不安だけど、
この子のためなら、何とか生きていけると言う自信があったのだ。
畳の匂いが、自然と自分を安心させ
実家を彷彿とさせた。
実家の母とは疎遠で、ここ数年連絡を取っていない。
彼との結婚を反対していた母だから
今更帰るなんて、絶対にできない。
しわしわになってきた、自分の手を眺めると
また、涙が出た。
悲劇のヒロインみたいで、かっこいいじゃない、なんて
思えるようにさえなっていた。
そんな時、前読んだ本を思い出した。
「天使さんと悪魔さん、だったかしら・・・・」
凄く、残酷な話のように思えたのに
お腹の中の子には、間違ったラストを話したのだ。
そうなっていればいいな、と思って話した。
「私は・・・・天使・・・・」
そうよ、
私は天使なの。
絶対幸せになるのよ。
残酷な感情に支配されつつあった私は
自分自身が音を立てて壊れていくのがわかった。
綺麗な感情で包んでいた心を
ぶち壊したのだ。
黒いインクが、顔面に垂れてきた気がした。
一気に目の前が暗くなって
「いいよね。私、我慢したもの」
結婚生活わずか3年目にして
私は幸福感を失っていたんだ。
安心が欲しい、安定が欲しい。
私は重い体を起こし、窓を思いっきり音を立てて閉めた。
