薄暗い海で、私は突っ立って泣いていた。
5歳の女の子は、声を精一杯挙げて泣いていた。
涙が、生温い風によって、まだ、幼い頬に跡を残した。
届かない声は、儚くこだました。
清子(さやこ)は、両親がいない。
施設にも入れない女の子。
清子を慰めるように、波は優しく清子に近付いた。
清子は、自分が何処に居るのか知りたくなかった。
まだ、遠い記憶。此処で優しく母に抱かれた事があった。その記憶は、清子にとって、無くてはならない存在だった。