† Lの呪縛 †

帰りの馬車の中、オリヴィアは眠っていた。


診療所を出て馬車に乗ると、オリヴィアは安心したのか数分としないうちにウトウトし始めた。


ノエルは膝の上にのったオリヴィアの頭を優しく撫でた。


ガタガタと揺れ動く馬車の中で、グッスリと眠っている。


オリヴィアの寝顔を見つめるノエルの表情は曇っている。


全てはオリヴィアの為だと自分に言い聞かせていた。


だが本当は、違ったのかもしれない……そう、思い始めていた。


オリヴィアをみんなと同じ様な身体にしてあげたい。


今を楽しく生きて欲しい。


それらの思いは、本当は自分の為なのではないかとノエルは思った。


自分がオリヴィアと共に生きたいが為に、オリヴィアの為だと言い聞かせていただけ。


診察中のオリヴィアの強い眼差しを思い出すと、胸が騒ついた。


その表情はノエルに不安を芽生えさせた。


オリヴィアが皆と同じ様に生きられる様になったら、自分の元から離れてしまうのではないかという不安を。



「愛してるんだ……心から、君を……」



ノエルの小さな呟きは、馬車が走る騒音に掻き消された。


オリヴィアの頬を人差し指の背でなぞり、感触と温もりに酔いしれる。


どんどん矛盾し始める想いをどう処理していいのか分からないまま、馬車に揺られ帰路についた。