† Lの呪縛 †

オリヴィアを安心させる様にエリオットが微笑んだ。


医学が進みつつあるといえど、まだ市民には馴染みの少ない注射器。


メスや注射針を見ると、皆不安そうに怯えた顔つきになる。


その不安を取り除く事も医者の役目。


重々承知していながらも、患者の恐怖心を目の当たりにすると、自分自身も辛い気持ちになる。



「オリヴィア、君も自分自身の事が知りたいのだろう?」



オリヴィアの大きな瞳が震えた。


ノエルの腕にしがみつく手に力が入る。


エリオットの言うとおり、自分の体の事を誰よりも知りたいと思っているのはオリヴィアだ。



「お願いします……」



ノエルから体を離し、背筋を伸ばした。


オリヴィアの強い眼差しにエリオットは目を見張った。


初めて会った時も、診療所にきてからもずっと怯えていたオリヴィア。


だがガラリと変わった雰囲気に、心を奪われてしまいそうだった。



「直ぐに終わるよ」



エリオットはオリヴィアの袖を肘の上迄捲りあげ、ゴムで二の腕を縛った。


オリヴィアの白い腕に、薄っすらと緑がかった線が浮かび上がってくる。



「怖ければ目を閉じていなさい」

「……大丈夫です」



当の本人よりも、ノエルの方が目を背けてしまいそうだった。


オリヴィアの細い腕にゆっくりと針が刺さり、鋼鉄の筒の中に赤黒い液体が流れていく様子が、筒の硝子の部分からはっきりと見えた。


オリヴィアは動じる事もなく、無言で眺めていた。