「ユキ、何してるの?」
私の後ろでソワソワしてるのは、昔からの親友、新條ユキ。
ユキはとても美人さんで、スタイルが良い。
それと比べると、私なんか、全然。背は低いし、可愛くないし。
「行くよ、美音」
そう言って私の腕を力強く引っ張る。ああ、この人握力すごすぎる……。
「ふー……」
まあ、ユキはかなり美人だから。モテるのはわかる。
だからこうして教室に隠れながら行っている。でも、でもですね、ユキさん。隠れきれてないですよ?
男子の視線がすごい。
「新條、美人すぎる……」
「橘、邪魔」
ひ……ひどすぎる‼
いくらなんでも、邪魔って…。
あぁ、悲しいなあ。
何だか泣けてくる……。
「かわいいのに、ひどいな」
涙をためたまぶたに、ある男の子が涙を救ってそう言った。
「あ、美音…」
「行こう」
その男の子は、私の腕を引っ張った。
ドキン、ドキンと胸が高まる。
嬉しいと思う自分がおかしい。
私は……。
こんな気持ちになるのは始めてで。
おかしいくらい、ドキドキする。
「あの…」
見たことがない人。でも、かっこいい。
「あの…」
何度呼んでも、返事はない。
「あんたさぁ」
「悔しくない?」
へ? 何だろうと、言葉を期待してたのに。
悔しくないって、何に?
「あの…どういう意味ですか?」
「だから! あんたの友達とあんた、比べられて」
……確かに、悔しかった。
でも、何で文句を言おうとは思わなかったんだろう……。
「わか、らない。……でも、悔しかった。確かに、ユキはとても美人だ。けど、私は、可愛くないってわかってるから」
自然と、涙が出てきた。この人は、口調は意地悪だけど、優しい人だ。
ああ、好き。始めて会ったけど、大好き。
でも、自分に自信がない。
彼を好きになる資格なんて、私にはないよ……。

翌日、私は昨日のことがあってからか、いつもより早く登校した。
すると…
「美音、早いね今日」
え⁉ 何でユキがいるのー‼
「お、おはよ……」
笑顔にはなれなかったから、作り笑いをした。
「ねぇ、昨日の男の子、誰?」
と、ユキは私に質問してきた。
え……知らないよ。初対面だったし。
「わからない…」
と、曖昧に返した。
「ふーん」
まぁ、恋しちゃったけどね。
ユキは、教室を出て行った。
ユキって、機嫌悪くなったら、すぐに教室出て行くんだよね。
何でだろう。私、なんか悪いことしちゃったかな…?
「橘ちゃん、ちょっと来て」
数名のクラスメイトに呼ばれ私は教室を出る。
何だろう、今度は。
「あのさ、うちら、ユキちゃんと同じ中学だったんだけど……。ユキちゃん、自分が可愛いからって、男子にぶりっ子してるんだよー」
…そうなんだ。知らなかったなぁ。
「あ、あとね。ユキ、友達の好きな人とか、彼氏、すぐに取るんだよ。だから、ユキに好きな人教えちゃダメだから」
…この子たちの言ってること、理解できるけど、ユキとは、友達だから、理解したくない…。
でも…。
今日だって、機嫌悪かったの、それかもしれないし。
うわー、もう、一回頭冷やしたい。
「じゃあね、橘ちゃん!」
あーあ、私、どんどん悪い人間に変わっていくじゃないか。
「美音ー」
ユキが思いっきり後ろから抱きついて来た。
「な、どしたの?」
「あのね、立花くんにメアドもらったのー」
…ん? 立花くんって、誰?
「誰?」
私がそう聞いたら、ユキは勝ち誇ったように笑った。
そして、私の髪をなでた。
「そのまま、知らないでいてね? 私のために」
という、意味不明な発言をした。
ユキ、今の発言の意味は? どういうこと? 教えてよ。
ユキ…!
ユキ……? なんだか、最近のユキがわからなくなってきた。
ユキ……。私、ユキがわからないよ。