「
お母さんが、高校3年生の頃だった。学校のマラソン大会で、お母さんは無理しちゃってね、
発作をおこしたの。そしたらクラスの山本悟くんて人が、人工呼吸に、心臓マッサージを
してくれたの。おかげで、間一髪。お医者さんには、悟くんがいなかったら手遅れだったって。
だから、悟くんはね命の恩人なの。
それからお母さんたちは付き合っていたの。そして月日は流れて学生になったの。
悟くんは医学部に、わたしは、外語学部に行ったの。
悟くんの家は病院をやってたからね・・。本当に私たちは、お互いにひかれ合ってたし、
尊敬し合ってたの。
そして、ある日悟くんがプロポーズしたの。わたしは嬉しくって仕方がなかった。
それから間もなく悟くんの両親に挨拶に行ったの。
だけど・・・。」
ここで一旦母の話が止まった。
奈緒は聞いた。
「だけど・・・?」
母の話は続いた。
「その頃、隣町の医院と悟くんちの病院が、一緒になることが決まってたの。
悟くんのお父さんは、その医院と友好関係を結ぶために、その医院の院長の娘と悟くんの結婚
を決めていたらしいの。無論私たちは、別れなければいけなくなった。
でも、諦めなくって、悟くんはある時こういったの。『ふたりだけの結婚式をしよう』と。
そして、私たちは、森の中の小さな教会で式を挙げることにしたの。
「3月5日に会おう」と。
約束の日、わたしはウエディングドレスを着て、待ってたの。
ずっと、ずっと・・・。それから、悟くんがくることはなかった。」
母はそこまで言うとうつむいた。しくしくと静かに泣いた。そして、言った。
「死ぬ前に、もう一度会いたいよお!悟くん!」