母が倒れたのは、三年前だった。家で料理をしていた時に、急に倒れた。

診断の結果、持病である心臓病が悪化したという。それから毎日看病をしたり、手術を

したが、いっこうに良くならない。まだ、母は40歳なのに。

小野寺 奈緒は、帝都大学教育学部の2年生だ。将来は高校の数学教師になりたいと思ってい

る。


講義が終わったあと、真っ先に母のいる病院へ向かう。

[145 小野寺 美由紀]

ガラガラ・・


「お母さん、きたよ。」

肩につく程度のしなやかな髪に、色白の肌。

とても40歳とは思えない。美由紀は、読んでいた本をとじ、静かに言った。

「あら、今日ははやかったね。お母さん、今日は調子がいいのよ。」

「そう・・。よかったね。」

奈緒は、一言そう言うと、カーテンをあけた。季節はもう春で、暖かい風が入ってくる。

「・・もう春なのね。お花見行きたいなあ。」

ふと、美由紀はどこか寂しげに言った。まるで、自分のこの先が長くないかのように。

奈緒にはそれがよくわかった。声が詰まる。だけどやっとの思いで、「

「行こうよ!行けるよきっと。」

ただそれだけしか言えなかった。一瞬にして空気が重くなる。美由紀が口を開く。

「ほら・・、面会時間終わっちゃうよ・・。」

「・・・あは、そうだね。じゃあまた来るね。」

いつあの世に行ってしまうかわからない。いつあえなくなるかわからない。

今日かもしれない、明日かもしれない。そんな状況だった。だけど、母と会える明日を

信じて奈緒は帰った。