大きな鞄



プシューッと音を立ててドアが閉まる。

美里はまだ背を向けたままで、その肩が小刻みに震えているのがわかった。

電車がゆっくりと走り出す。
僕は、少しずつ速度を上げて行くその電車を追いかける。
美里がたたずみ、肩を震わせ、背を向けたままのドアを追いかける。

電車は否応なく加速をつける。
ドアに追いつけなくなるその瞬間、振り返った美里の目は赤く、頬は涙に濡れていた。


……頑張るからっ――――!


美里の唇が、最後にそう動いたのがわかったよ。

僕は、遠くなった電車に大きく頷いた。