大きな鞄



券売機に行き、美里は遠い町までの切符を右手に、僕は入場券を右手に改札を抜けた。

二人無言のまま、まだ人気もまばらなホームのベンチに腰掛ける。
会話はなくて、朝の静けさの中に二人の息遣いだけがくり返された。

少しすると、美里の乗る電車が滑り込んできた。
君は、すっくと立ち上がると大きな鞄を手にして僕より半歩先を歩く。
その背中は、とてもしゃんとしている。

「ねぇ。裕也……」

美里が振り返らずに僕の名前を呼ぶ。

「私、頑張るから。一人でも、ちゃんと頑張るから……」

美里の寂しそうな涙を含む声に、僕は半歩うしろで小さく頷いた。
声に出さず、ただ首を立てに振った。

美里の背中は、それでもしゃんとしていた。