「いいですよ」
今はアレックの言う事なら何でも従う事ができる真一だ。
そこにはお接待者が待っていた。
巡礼者を集めて昼食を接待するのだ。
「どうです皆で昼食を食べましょう」
「ありがとうございます。いただきます」
生ハム、パン、ビスケット、アンチョビ(イワシ缶詰)そしてワインと豪華な昼食である。
「昼間からワインですか」
「スペインには良い諺があります。『ハム・ワイン・昼寝』」
「なるほど、スペインらしい。ワインをいただきます」
側にアレックがいて、美味しいワインを飲んで、生ハムを食べ最高の贅沢の時間に真一は思えた。
実際、この時が真一にとって巡礼最高の幸福となる。
一方アレックは靴を脱いでいた。
肉刺(まめ)が数ヶ所に出来ていた。治療しようとしていた。
そばで見ているだけで痛々しい。
自転車巡礼者がアレックの足の治療を手伝っている。若い男性だ。真一は嫉妬心を覚えるものの何もできない。
日本人のシャイさなのか、もっと積極的になれ。
「アレック大丈夫歩けますか」
「もう大丈夫よ痛くない」
自転車巡礼者は肉刺の部分にジェル状のテープを張ってくれたのだ。始めの状態は傷テープの様な薄い物なのだが、患部に張ると水分を含んでジェル状に変化して傷を保護する優れものがスペインにはあった。
沢山ご馳走になり。再び歩き出した。
アレックが先頭に歩く、その歩調なら大丈夫そうだと安心した。
宿泊予定地まで約3キロすぐに着いた。
巡礼宿にチェックインしようとしたのだが。パリ娘がすでにチェックインしている宿を探すというのだ。
パリ娘は足が痛く、バスで移動して病院に行ったと言う。
そして、宿で休んでいるとの事だ。
その宿を探すが中々見つからない。
30分も町を歩き回り、やっと見つけた。
中級のホテルであった。
それでも巡礼宿の看板は出ていた。
「私はここに宿泊します。真一はどうします」
ちょっと高そうだ。一瞬迷った。
「いつもの相部屋のある巡礼宿にするよ」
「それじゃ、チャックインまで手伝うわ」
アレックはついて来てくれた。
「ありがとう。もう大丈夫だ」
「夕食は一緒にしましょう」
「時間は」
「8時に私たちの宿に来て」
「分かった」
「じゃ私はこれで」
アレックは帰った行った。
パリ娘の足は安静2日間との医師の診断である。
「私たちもう1泊するんだけれど、真一はどうします」
夕食が済んだところでアレックは言った。
一瞬のためらいもなく。
「連泊するよ」
もうアレックと離ればなれとなる事は嫌である。
次の日は何もする事はなかった。
街をぶらついていると、パリ娘が喫茶店で朝食を取っていた。
「おはよう」
向かい側の席に着いた。
お茶目な感じの可愛い子だ。どことなくハリーボッタ彼女役の女優に似た感じがする。
話しをしていて楽しい気分にさせてくれる女性である。
「ところでパリ娘は何歳?」
巡礼では若い女性に歳を聞いても問題はない。
「アレックと同じ27歳よ」
「若いんだね」
「真一はアレックを好きでしょう」
直球で尋ねられた。やはり悟られていたのか。
「正直言って、好きを通り越していい歳して恋しているよ」
「深入りしては駄目よ」
「えっ、どうして」
「アレックはどんな仕事をしてきたか知っているの」
「知ってるよ。マッサジ師だろ」
「馬鹿ね。マッサージと言ったら風俗に決まっているじゃない」
「風俗!」
ファッションマッサージか。風俗嬢だったとは。
真一の顔色が少しだけ変わった。
そこに、アレックがやって来た。
今の話を聞かれたのではないかと心配した。
「おはよう」
アレックが明るく挨拶した。
「オ・ハ・ヨ・ウ」
真一の挨拶はどことなくぎこちなかった。
過去の職業など関係ない今が大事だと言い聞かせた。
「よく眠れた」
「余り良く眠れなかった」
「どうして?」
それはアレックと違う宿だったからと正直には言えなかった。
「うん。ドミトリーなのに宿泊者がいないんで、独りっきりだったので、寂しくて寝られなかったんだ」
事実、大きな12人部屋に一人寝るのは寂しかった。
アレックも朝食を注文した。
黒焦げの1枚のトーストとバター、いちごジャムそしてココアだった。
「これからどうするの」
パリ娘は明日のバスで100キロ先のリオンに向かうという。
アレックは明日からは歩き始めると言う事だ。
「真一はどうするの」
「もちろん歩くさ」
明日の巡礼路は18キロ何もなり旧道に入るか、普通の新道を歩くかの選択肢があった。
真一は観光協会で明日の巡礼路の状況確認をする予定である。
パリ娘はバスの時間表の確認する。
アレックはスーパーマケットに行き明日の食料品買出しと行き先が異なった。
夕食も昨夜と同じように、アレックが宿泊しているホテルに予約しあった。
食事時間は8時からである。
未だ時間がある。今日は何もする事がない。暇である。
洗濯は午前中に済ませて出かけたのでやる事がないのだ。
それでも時間は確実にやってくる。
夕食の時間となった。
スープから始まる。音を立てずに飲むのは疲れる。
真一は飲むのがどうしても遅くなってしまう。
フランス人は馴れたもの素早く皿を空にした。
メインデッシュが出てくるまでには時間がかかる。いくらスープを飲むのが遅くても大丈夫である。
舌平目のムニエルが出てきた。中々の味である。
飲むワインの味が引き立つ。
デザートに果物を選択するとスモモが5つ出てきた。日本のと遜色ない味だった。
「私はこれでお別れね」
食事を終えたパリ娘はハフ(頬付け合う)の挨拶をして言った。
つ~んと腋臭の臭いが漂ってきた。欧米人は体臭が強い。フランスと香水か、やはり必要だから生まれたのだ。
でも動物らしい女性の臭いは嫌な感じはしなかった。
「アレック明日はどうする。一緒に出発しますか」
「いつものように真一が先に歩いて下さい。追いつきます」
「そうするよ」
しかし、翌朝はいくら待ってもアレックの姿はなかった。
どうしてしまったのか?
分からない。
出発して5キロくらいの地点に分岐点があった。
右折は旧道山道18キロである。左折は新道で街をいくつも通過する整備された道で、真一は新道を選んだ。
昨日、新道を歩く事は伝えてあったのだが。
追いついてこない。
間違えて旧道に入ってしまったのか。
足の状態が思わしくなく、パリ娘とバスに乗ってしまったのか。
あるいは足の状況が悪く連泊したのか?
このいずれかの理由が考えられる。
アレックに会いたいな・アレックに会いたいな・アレックに会いたいな・アレックに会いたいな・アレックに会いたいな・アレックに会いたいな・アレックに会いたいな・アレックに会いたいな・アレックに会いたいな・アレックに会いたいな・アレックに会いたいな・アレックに会いたいな・アレックに会いたいな・アレックに会いたいな・アレックに会いたいな・と。
百万回呼び続けてもアレックは追い付いて来なかった。
なぜ携帯番号を聞いておかなかったんだ。真一は携帯を持っていないからだが。番号さえ聞いておけば掛ける手段は幾らでもあったはずだ。後悔したが遅かった。
今はアレックの言う事なら何でも従う事ができる真一だ。
そこにはお接待者が待っていた。
巡礼者を集めて昼食を接待するのだ。
「どうです皆で昼食を食べましょう」
「ありがとうございます。いただきます」
生ハム、パン、ビスケット、アンチョビ(イワシ缶詰)そしてワインと豪華な昼食である。
「昼間からワインですか」
「スペインには良い諺があります。『ハム・ワイン・昼寝』」
「なるほど、スペインらしい。ワインをいただきます」
側にアレックがいて、美味しいワインを飲んで、生ハムを食べ最高の贅沢の時間に真一は思えた。
実際、この時が真一にとって巡礼最高の幸福となる。
一方アレックは靴を脱いでいた。
肉刺(まめ)が数ヶ所に出来ていた。治療しようとしていた。
そばで見ているだけで痛々しい。
自転車巡礼者がアレックの足の治療を手伝っている。若い男性だ。真一は嫉妬心を覚えるものの何もできない。
日本人のシャイさなのか、もっと積極的になれ。
「アレック大丈夫歩けますか」
「もう大丈夫よ痛くない」
自転車巡礼者は肉刺の部分にジェル状のテープを張ってくれたのだ。始めの状態は傷テープの様な薄い物なのだが、患部に張ると水分を含んでジェル状に変化して傷を保護する優れものがスペインにはあった。
沢山ご馳走になり。再び歩き出した。
アレックが先頭に歩く、その歩調なら大丈夫そうだと安心した。
宿泊予定地まで約3キロすぐに着いた。
巡礼宿にチェックインしようとしたのだが。パリ娘がすでにチェックインしている宿を探すというのだ。
パリ娘は足が痛く、バスで移動して病院に行ったと言う。
そして、宿で休んでいるとの事だ。
その宿を探すが中々見つからない。
30分も町を歩き回り、やっと見つけた。
中級のホテルであった。
それでも巡礼宿の看板は出ていた。
「私はここに宿泊します。真一はどうします」
ちょっと高そうだ。一瞬迷った。
「いつもの相部屋のある巡礼宿にするよ」
「それじゃ、チャックインまで手伝うわ」
アレックはついて来てくれた。
「ありがとう。もう大丈夫だ」
「夕食は一緒にしましょう」
「時間は」
「8時に私たちの宿に来て」
「分かった」
「じゃ私はこれで」
アレックは帰った行った。
パリ娘の足は安静2日間との医師の診断である。
「私たちもう1泊するんだけれど、真一はどうします」
夕食が済んだところでアレックは言った。
一瞬のためらいもなく。
「連泊するよ」
もうアレックと離ればなれとなる事は嫌である。
次の日は何もする事はなかった。
街をぶらついていると、パリ娘が喫茶店で朝食を取っていた。
「おはよう」
向かい側の席に着いた。
お茶目な感じの可愛い子だ。どことなくハリーボッタ彼女役の女優に似た感じがする。
話しをしていて楽しい気分にさせてくれる女性である。
「ところでパリ娘は何歳?」
巡礼では若い女性に歳を聞いても問題はない。
「アレックと同じ27歳よ」
「若いんだね」
「真一はアレックを好きでしょう」
直球で尋ねられた。やはり悟られていたのか。
「正直言って、好きを通り越していい歳して恋しているよ」
「深入りしては駄目よ」
「えっ、どうして」
「アレックはどんな仕事をしてきたか知っているの」
「知ってるよ。マッサジ師だろ」
「馬鹿ね。マッサージと言ったら風俗に決まっているじゃない」
「風俗!」
ファッションマッサージか。風俗嬢だったとは。
真一の顔色が少しだけ変わった。
そこに、アレックがやって来た。
今の話を聞かれたのではないかと心配した。
「おはよう」
アレックが明るく挨拶した。
「オ・ハ・ヨ・ウ」
真一の挨拶はどことなくぎこちなかった。
過去の職業など関係ない今が大事だと言い聞かせた。
「よく眠れた」
「余り良く眠れなかった」
「どうして?」
それはアレックと違う宿だったからと正直には言えなかった。
「うん。ドミトリーなのに宿泊者がいないんで、独りっきりだったので、寂しくて寝られなかったんだ」
事実、大きな12人部屋に一人寝るのは寂しかった。
アレックも朝食を注文した。
黒焦げの1枚のトーストとバター、いちごジャムそしてココアだった。
「これからどうするの」
パリ娘は明日のバスで100キロ先のリオンに向かうという。
アレックは明日からは歩き始めると言う事だ。
「真一はどうするの」
「もちろん歩くさ」
明日の巡礼路は18キロ何もなり旧道に入るか、普通の新道を歩くかの選択肢があった。
真一は観光協会で明日の巡礼路の状況確認をする予定である。
パリ娘はバスの時間表の確認する。
アレックはスーパーマケットに行き明日の食料品買出しと行き先が異なった。
夕食も昨夜と同じように、アレックが宿泊しているホテルに予約しあった。
食事時間は8時からである。
未だ時間がある。今日は何もする事がない。暇である。
洗濯は午前中に済ませて出かけたのでやる事がないのだ。
それでも時間は確実にやってくる。
夕食の時間となった。
スープから始まる。音を立てずに飲むのは疲れる。
真一は飲むのがどうしても遅くなってしまう。
フランス人は馴れたもの素早く皿を空にした。
メインデッシュが出てくるまでには時間がかかる。いくらスープを飲むのが遅くても大丈夫である。
舌平目のムニエルが出てきた。中々の味である。
飲むワインの味が引き立つ。
デザートに果物を選択するとスモモが5つ出てきた。日本のと遜色ない味だった。
「私はこれでお別れね」
食事を終えたパリ娘はハフ(頬付け合う)の挨拶をして言った。
つ~んと腋臭の臭いが漂ってきた。欧米人は体臭が強い。フランスと香水か、やはり必要だから生まれたのだ。
でも動物らしい女性の臭いは嫌な感じはしなかった。
「アレック明日はどうする。一緒に出発しますか」
「いつものように真一が先に歩いて下さい。追いつきます」
「そうするよ」
しかし、翌朝はいくら待ってもアレックの姿はなかった。
どうしてしまったのか?
分からない。
出発して5キロくらいの地点に分岐点があった。
右折は旧道山道18キロである。左折は新道で街をいくつも通過する整備された道で、真一は新道を選んだ。
昨日、新道を歩く事は伝えてあったのだが。
追いついてこない。
間違えて旧道に入ってしまったのか。
足の状態が思わしくなく、パリ娘とバスに乗ってしまったのか。
あるいは足の状況が悪く連泊したのか?
このいずれかの理由が考えられる。
アレックに会いたいな・アレックに会いたいな・アレックに会いたいな・アレックに会いたいな・アレックに会いたいな・アレックに会いたいな・アレックに会いたいな・アレックに会いたいな・アレックに会いたいな・アレックに会いたいな・アレックに会いたいな・アレックに会いたいな・アレックに会いたいな・アレックに会いたいな・アレックに会いたいな・と。
百万回呼び続けてもアレックは追い付いて来なかった。
なぜ携帯番号を聞いておかなかったんだ。真一は携帯を持っていないからだが。番号さえ聞いておけば掛ける手段は幾らでもあったはずだ。後悔したが遅かった。
