「俺、音楽の詳しいことはわかんないっすけど、先輩のピアノの音は凄く優しいな、って思うんです。だから、弾いてる人…水瀬先輩もきっと優しい人なんだろうなって思ってて…だから、予想通り優しい人で嬉しい」
少し照れたような笑顔に、私の心臓がとくん、と鳴った。
すごく暖かいのに、どこか切なくて痛い鼓動。
「なんか…ありがとう」
自然と笑顔になれた。けれど、浅生君は慌てたように床に転がったままのサッカーボールを手に取った。
そして、何かを決意したようにサッカーボールから顔を上げた。
「あの…っ!」
「はい」
「俺、水瀬先輩のこと知ってから、ずっと憧れてたんです」
「え?」
驚いたなんてものじゃない。
この地味な私に?
憧れる?
あり得ない。
そんな気持ちが全面に出たのだろう。浅生君が更に言葉を重ねてきた。
「嘘じゃないっすよ!俺、先輩のピアノに本当に元気貰ってたんです!その…窓ガラス割っておいて言う事じゃないんですけど、そのお陰で先輩と話せて、すげぇラッキーだと思ってるんです!良かったら、俺のこと覚えて欲しいんです」


