お針子と薬師見習い

「いらっしゃいませー」

 扉を開けると元気の良い声が飛んでくる。薬屋の中は少し涼しく、初夏の暑さが一気になくなる。

「あ、初めてのお客…だよな?」
「は、はい…」

 店番をしている青年は18、9くらいの若い青年で、紫の髪に黄色の瞳をしていて、右目には…

「ん?あぁ、コレ?カッコいいだろ?」

 眼帯をしていた。しかも紫の髪で、黄色の瞳…。服はこの時代では珍しい形の服を着ていた

「異国の方…ですか?」
「いんや、純粋な日本人。薬の調合に失敗して髪の色がおかしくなったり目の色が黄色になっただけ」
「え…」

 彼の言ってる事は壮絶過ぎて、理解するのに時間がかかった。何しろ薬の調合で目が黄色になるなど聞いた事がない(髪は色素が抜けて茶色っぽくなった…というのは聞いた事があるようなないような)

「眼帯は…まぁ企業秘密ってやつで。服は異国人の客から貰った」

 そう言って青年は服をひらひらさせる。針子魂なのか、珍しい服を見ると無性に服を縫いたくなる

「あの…、腕の痛みを引かせる薬ってありますか?」
「腕?」
「はい」
「怪我でもしたの?」
「いえ…。」

 松葉は青年に症状をかいつまんで説明した。少し不真面目な雰囲気だったが説明してる間は真剣に話を聞いてくれて、考えを改め直した。説明が終わると青年は「なるほどな」と、言って松葉の腕を取る

「見たところそこまで腫れてるわけでもねーしパッと見じゃわかんねーだろうな」
「え…?」
「多分腱鞘炎だな」
「腱鞘炎?」

 聞きなれない言葉に首をかしげる松葉に青年は後ろの棚から薬を探しながら腱鞘炎の説明をする

「簡単に言えば腕の使いすぎ。お前、針子って言ってたろ。針仕事で腕を酷使し過ぎたんだよ。針仕事ってのはずっと同じ体制で何時間も腕動かしてる仕事だからな、たまには休まねーと腱が痛んで炎症を起こす」
「そうなんだ…」
「腱鞘炎には…あった、あった。この薬が効くぜ」

 青年は松葉の前に瓶を置く。

「一日3回朝昼晩とこの薬を痛いトコに塗りな。1ヵ月もすりゃ完治する」
「い、1ヵ月…!?」

 1ヵ月も針仕事を休めという事に松葉は思わず絶句する。1ヵ月腕を動かさなかったら絶対腕が鈍る。

「…少なくとも3週間は針を持つな。難しいか?」
「……はい…。」

 正直、3週間も針を持たない自信は全くない。1日でも危ういというのに、3週間なんて気が遠くなる

「じゃあ毎日ココ来いよ」
「…え?」
「針持たない様に見張っててやるし、家で一人で居るより外出た方が気も楽だろ?」
「でも、迷惑じゃあ…」
「迷惑だったら言わねーよ。」
「…じゃあ……良いですか?」
「もちろん」

 青年はニッ、と笑い松葉の頭の上に手を乗せる

「俺は梓ってんだ。お前は?」
「松葉です」
「ん。宜しくな、松葉」
「こちらこそ、宜しくお願いします」