「お坊ちゃま。健司様が日本に帰国しました。」
「・・・。」

健司さん、龍のお父さんだ。
龍のお母さんは、龍が保育園の頃に亡くなったらしい。
龍のお父さんとは前に一度だけ会った時がある。
龍と、龍のお父さんは
あまり会話がなく、仲がいいとは
あまり言えない。
龍のお父さんは、仕事一筋の人だ。
日本には、めったに来ないらしい。

「明日、アメリカに飛び立つそうです。」
「・・・、有紗先に俺の部屋に行っててくれ。」
「うん、わかった。」

そう言い残し、龍はどこかに行ってしまった。

龍の部屋に入り
無駄にでかいソファに座る。



龍のお父さん、か。

初めて会った時の印象は
厳しそうな人だと思った。
仕事しか見えてないんじゃないかと思った。

龍はきっと、将来この家を継ぎ
この大きな会社を継ぐだろう。
龍も将来、仕事仕事の毎日になるだろう。

そして、いつも龍のそばにいる人は
きっと私じゃない。
こんなに大きな会社だ。
許嫁とかいてもおかしくない。
何処かの令嬢とか、ではないか。


考えていると、胸が痛くなり、
目から涙が出てきた。

制服のポケットに入っていたハンカチを取り出し
その涙を拭く。