「――――………は?」
たっぷり間を開けて戒が問いかけてくる。
大きな目を目一杯開いたかと思うと、途端にまたも視線が険しくなって
ぅわぁぁああん!まだ怒ってるよーーー!!
あたしはまたも泣きだしたくなった。
で、でも逃げちゃいけねぇ。ここで仲直りしなかったら女がすたる…じゃなくて、チャンスを逃しちまう!
何せここはまだ病院だし、いつドクターが顔を出すか分かったもんじゃねぇし、家に帰ったらまたマサたちがうるせぇし。
「昨日……カズノリくんのことで言い合いになったろ?」
あたしはおずおずと言い出すと戒は険しかった瞳の目尻をちょっとだけ緩めた。
「ああ……」
「あれ…あたし言いスギタ ゲンパク」
ああ…あたし何言っちゃってんの!
図書館でちょっと社会(日本史)の宿題やったのがまずかったかなぁ。
とにかく、謝りたい一心なのにうまく言葉が出てこなくって
何が何だか……あたしの頭の中ぐちゃぐちゃ。
慣れない勉強なんてしちまったせいかも。
だけど
あたしの言葉に戒は怒り出すどころか、目じりがみるみる丸みを帯びていく。
「解体新書の?江戸時代の蘭学医で若狭国小浜藩医…」
ランガクイ ワカサ
戒の言葉をうまく変換できなかったけど(くっそ、さすがに頭のデキが違うぜ)、「そうそう」ってな意味で頷くと
戒は
「言い杉田 玄白って……」
ぷっと吹き出して笑うと、険しかった瞳を完全に穏やかにして
「ぜーんぜん怒ってねぇし」
と口元を緩めて、あたしの頭ぽんぽん。



