『ねぇ取引しない?』




そう聞かれて俺は目を開いた。


取引――――やと……?


「何を今さら言うてんねん。それどころやあらへん。


知ってるやろ。


それにあんたと取り引きなんて怖ぁてできへんわ。こっちの情報がスネークにダダ漏れやないか」


俺が声を低めながら朔羅の頬を撫でていると


『知らないから取引しよう、って言ってるんじゃない。


朔羅に何があったのか教えて。


こっちも情報を渡すわ。


“スネーク”には内密の取引よ』


ピクリ


またも俺の朔羅を撫でる指先が止まった。


俺は愛しい女の唇をそっと撫で―――そのふっくらとした淡いピンク色の唇に口づけを落としたい衝動を抑え


ぎゅっと目を閉じた。


俺は―――


愛しい女がすぐ近くに…目の前に居るってのに、何もできない無力だ。


それをまざまざとスネークに見せつけられた。


こんなに近く居たのに―――何もできなかった。




取引―――





罠かもしれないが、それが本当なら


―――もしかしたら朔羅を救えるかもしれない。





俺に残された選択肢は一体どれだけある。


もしかしたら一つもないかもしれない。


あの憎らしい女狐の取引に応じるのは癪だが、少しでも可能性があるのなら




縋ってみたい。