玄蛇が振り向かせた勢いのせいであたしの手からグラスが離れた。
トン…!
グラスは絨毯の上に落ちて、ころころと転がっていく。
その中から淡いピンク色をしたシャンパンの液体がこぼれて絨毯に染みを作った。
あたしは玄蛇に肩を掴まれたまま玄蛇の方に振り向かされて、玄蛇を見上げた。
訂正、睨み上げた。
何よ今さら、お説教のつもり?
「離してよ」
乱暴に手を振り払おうとして、玄蛇がその手を掴んだ。
「離さない」
たった一言―――黒いコンタクトの向こう側で赤い光を宿らせて真剣に言う玄蛇に
苛立ちが募った。
「離してよ!」
あたしはもう一度叫んだ。
「離さない」
またも玄蛇は言い、あたしの腕を掴んで引き寄せようとする。
力じゃとてもじゃないが敵わないと分かっていても、玄蛇から逃れるよう手を振り払おうとした。
「離しなさいよ!あたしはあんたの雇主よ!」
もう言ってること滅茶苦茶。
支離滅裂な言葉の中
またも
「離さない」
玄蛇の冷静な声が―――しかし耳にはっきりととおる低い声が届いて
あたしは今度こそあっけなく玄蛇の胸の中に抱きしめられた。



