玄蛇は黒い髪で黒いスーツ姿。仕事帰りっぽいいでたちだった。
どうやら慌てて来たのは本当らしい。
「イチ―――……そこに居たのか…じゃぁバスルームには…」
玄蛇はシャワーの音がするバスルームを気にするように顎をしゃくり
あたしはバスルームの扉を乱暴に開けた。
「開いてる」
ただ
意味もなくシャワーの蛇口は捻ってあって、誰も当たることのない水しぶきが床を打ち付けている。
「ちなみに誰もいないわ」
そっけなく言って僅かにはだけたバスローブの前を合わせる。
「そう―――だったのか……何故、シャワーを出しっぱなしに…?」
「そんなの知らないわよ。したいからしただけ。意味なんてないわ」
またもぞんざいに言ってあたしは持っていたグラスをぐいと一口。
玄蛇が眉をひそめる。
「イチ―――…酔っているのか?」
「だったら?あたしだって飲みたいときがあるの。
あんたにも分かるでしょう―――?って…あんた飲めないんだっけ…」
「飲めないんじゃない。必要なら飲むさ。
だが、アルコールは仕事の邪魔になる」
玄蛇が心外そうに眉をひそめた。
「ふん、どっちでもいいわ」
くるり
玄蛇に背を向けるとあたしはグラスを持ったまま寝室に戻ろうとした。
その後ろで慌ててシャワーのお湯を止めると、玄蛇はあたしの後を追ってきた。
キッチンに設置されているお湯も出しっぱなしだった。
さっきまで意味もなくそこに手を付け流しっぱなしにしていたのだ。
完全に酔っている―――と言う自覚だけはあった。
「イチ―――飲み過ぎだ。
いい加減、やめなさい」
玄蛇が言って、あたしの肩に手を置くとぐいとそちらを向かせた。



