あたしは蛇口をひねって勢いよく水を出した。


その横でシャンパングラスを傾け、水音に耳を澄ませながらごくりと一気飲み。


高価なことは確かだけどそれがおいしいのかどうか、もう分からない。


味が分からなくなるほど、あたしは飲んでいた。


視界が傾く。お湯につけた手がふやけそうだった。


ザー…


ひたすらに水音に耳を傾けていると


バタンっ!


遠くで音が聞こえた。






「ごめん、遅くなった」





男が一人この部屋に入ってきた。





今さら――――何だって言うのよ。


返信の一つぐらいしなさいよ。




喉まで出かかった悪態を、しかし口にすることはしなかった。訂正、できなかった。


立ち上がるのもやっとだ。


あたしはお湯から手をあげのろのろと顔を声のする方へ向けた。


「イチ、すまなかった」


男はもう一度謝り、あたしは裸足のままそっと歩き出すと男の姿を探しに歩き出した。