もうあいつはこない。


諦めるのに、だいぶ時間が経っていた。


まる半日無駄にして、ただぼんやりしてバカみたいだ。


夜も22時。


いい加減シャワーを浴びて明日の準備をしなきゃ。


寝不足は肌に堪える。


ルームサービスで取ったシャンパンを手に私は魂の抜けた人形のようにふらふらとバスルームに向かった。


シャンパンの瓶を洗面台に置いて、服を脱ぐ。


髪をクリップで束ねようと、前を向いたときにはっとなった。


服から―――……あたしの使ってる香水じゃない…


あの男のまとった香りが―――ふわりと漂ってきてあたしは目を開いた。


まだ鮮明に残っている―――


あの美しい男……あの刑事の記憶だけが鏡に映り、あたしをじっと見つめている。


ドキリ


として振り返っても、


当然ながらそこに誰も居ない。



まだ―――記憶に焼き付いている、鼻にあの男の香りがくすぶっている。


迫られたとき、より一層強く―――その記憶がよみがえり


あたしはその記憶を破壊するかのように、シャンパンのボトルを振り上げた。