「お嬢さんは腕に怪我をされているようですが、手当てしましたのでもう大丈夫。


新しい部屋を用意させます」


怪我――――……!


「大丈夫です。メスの先で切っただけで傷もそう深くありません」


「メスっておおごとじゃねぇか!!」


思わずドクターの胸倉を掴んで怒鳴ると、ドクターは迷惑そうに顔を背け、


「手当てはしてあるので大丈夫です。それよりも彼の様子が心配です」


響輔を目配せ。


朔羅をとりあえずこの病室のベッドに横たえ、ドクターは今響輔の容態を診察している。


首筋に手を這わせ、


「意識を失っているだけです。恐らくブピカインを投入されたんでしょうね。


アンモニア水を持ってこさせましょう。気付け薬です」


ドクターの指示通りすぐに違うドクターがアンモニア水を持って走ってきた。


小さな小瓶だったが、それを響輔の鼻に近づけると響輔は、はっ!と目を開き


げほごほっ


と咳き込んで腰を折った。


「響輔っ!」


俺が慌てて響輔を抱き起すと


「―――……戒さん……お嬢が………」


響輔はうつろな目で俺を見上げてきて、それでもすぐに額の傷口が痛むのか「っつ……」顔をしかめる。


「朔羅なら大丈夫だ、なぁドクター」


俺は響輔を安心させるためにドクターを振りかえると


「熱射病の影響でしょう。CTは異常がありませんでしたが、恐らく精神的なものが影響しているんでしょう。


悪い夢でも見て寝ぼけた―――と考えるのが妥当かと」


と、こちらは真剣そのもの。


悪い夢を見て寝ぼけた―――……?俺にはそう見えなかった。


あれは朔羅じゃなかった。







じゃぁ一体あの女は―――









誰なんだ。