「お嬢は泣いてましたよ。戒さんを怒らせたって」


響輔が俺の隣に腰掛け、どこか他人事のように報告してくる。


敢えてそうしているのだろう。


響輔は―――…響輔だったら二人の気持ちを一ミリも間違えることなく解釈したに違いない。


でも俺たちはすれ違ってしまう。


まっすぐ見てるつもりなのに。


時々朔羅と目指す道が変わってしまう。


「怒らせたって…俺の方が悪いだろ、ありゃ」


「完全に」


響輔は朔羅の味方だな。


まぁ俺が悪いし何も言い返せないけど。


「お嬢は今ドクターの鎮静剤で眠ってますよ。いっとき酷く取り乱してましたが薬を投与してもらって落ち着きました」


「そっか…


悪いな迷惑かけて。今日一晩…」


「彼女の傍に」


響輔は俺の言葉を遮って、顔を俺に向けてきた。


「安心してください。彼女の護衛です。


ここはまだ白へびの疑いのあるドクターも居るし、タイガさんだって簡単に入り込める場所です」


こんなときに限って響輔にやましい気持ちが1ミリでもないことを分かっていたけれど、改めてそう言われて少し安心した。


「それに



フェアじゃないじゃないですか。




彼女が傷ついてるときに近づくのは、卑怯な気がする」



響輔も膝に両肘をつき、両手で口を覆った。


はぁ…


小さくため息を漏らす声が聞こえた。