今度こそキョウスケのやつも後を追ってくることはなかった。


お嬢の病室に向かおうとすると


「弟よ、もう内緒話は終わったかい?」


階段の影からのっそり衛が姿を現し、まったく予想もしていなかったヤツの登場に俺はびっくりして思わず足を止めた。


「衛…いつからここに?」


聞かれてマズい話はしていないし、どうせ衛が聞いてたって大した興味なんて湧かないだろうが。


それでも…俺どころかキョウスケも気づかなかったようで


ちらりと後ろを振り返ると、キョウスケも同じように目を開いてその場で固まっていた。


「少し前だよ。ふふっ


君たちはいつの間にそんなに仲良くなったのか、是非♪知りたいね」


衛が興味を持ったのは違う種類のもので


「人間のコミュニケーション能力について考えていたところですよ。


そもそもコミュニケーションとは発信と応答という観点から見た場合、ある個体の…」


衛はつらつらと説明してきたが


「ああ、もういい。分かった」


俺は手を挙げて衛の言葉を遮った。


やっぱこいつはこいつだ。


真面目に付き合うほど時間の無駄な使い方はない。


俺はさっさと歩きだしたが


「ああ、それと。お嬢さんが先ほどお目覚めになられましたよ」


衛があたかもついでのようにさらりと言い、



「お前は!!大事なことを早く言え!」



俺は怒鳴り声を挙げて肩を怒らせ病室に向かった。






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