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―* 鴇田Side *―





同時刻。


―――東京、鴇田組会計事務所。




体調がすこぶる良かった。


ずっと新システムにつききりで寝不足な毎日が続いていたが、


おまけに真夏だからか、持病の貧血が酷かった。めまいや吐き気、頭痛なんかの症状と嫌な付き合いをする日々を送っていたが


けれどシステムもおおまかだが完成が見えてきて、昨夜は久しぶりに泥のように眠った。


キリも昨夜は自分のマンションに帰っていったし、久しぶりに一人の夜を過ごし気分もすっきりしていた。


しかも今は厄介者のタイガが居ない!!


これが一番大きいな。


しかし


意外だが俺の秘書的な存在のヤツは、こまごまとした雑務をこれまた気の利くタイミングで用意してくれるのだが、


ヤツの不在で困ることもある。


「昨年の会計台帳が見当たらないのだが」


俺がテーブルの上のファイル類をまさぐっていると


「資料室に戻してしまいました。大至急取りに行ってきます!」


組員の会計士が一人慌てて席を立つ。


「いい。俺が行く。今日は時間に余裕がある」


俺が手を軽く挙げて立ち上がると


組員たちは揃って顔を見合わせた。


「どーしたんだ今日は。オヤジ、やけに機嫌がいいな」

「明日は台風だな」

「顔つやもいいし、昨夜は婚約者と…♪」


と、またもひそひそ。


違う。


いちいち否定するのも疲れるから俺はそのままにしておいた。


とりあえずは今は資料だ。


無視して事務所を出ようとすると


「い、今は行かれないほうがいいですよ!!


タイガの兄貴が……!」


と言っていたが、俺はその組員のありがてぇ忠告も聞こえず、エレベーターに向かっていた。