ようやく見つかった個人タクシーを捕まえたのは、それから十分近く経ってからだった。


「御園医院まで」


と伝えると


「え?御園??」とこれまた間抜け面を浮かべたタクシードライバーが後ろを振り返り


「早よ行けや!急いでんだよ!!」


俺が勢い込むとタクシードライバーは慌てて前を向いた。


「すみません、私…土地勘があまりなくて」


と言いながらノロノロと搭載されたカーナビでルートを検索している。


くっそ!どいつもこいつも!!ふざけやがって!!


「落ち着いてください、戒さん。お嬢は御園医院に着いたようです。


俺が道案内をします」


響輔はケータイを閉じて運転手に道を説明。ようやく運転手がほっとしたように安堵して


車は走り出した。


俺たちが到着したのは電話を受け取ってから実に一時間近くも経っていた。


道が混んでいたってのもある。


不慣れなドライバーはすいてる裏道も知らなかった。


一刻も早く病院に飛び込みたい俺は、ギリギリと歯ぎしりをしながら手を組んで口の中でひたすらに


「朔羅」


と愛しい女の名前を呼び、安否を気遣っていた。


隣に座った響輔はそんな俺の頭に手を置き


「大丈夫です。お嬢は倒れるとき一ノ瀬くんが支えてくれたおかげで頭も打っていないようですし、呼吸も脈拍の乱れもなさそうです。


大丈夫です」


最後にもう一度繰り返して、


でもその言葉は俺に向けて―――と言うよりも、自分自身に言い聞かせているような気がした。





響輔も心配には違いないのだ。


でも響輔の「大丈夫」には何故か威力がある。そう言われるとそんな気もしてくる。


まぁ医学的知識もあるってとこが大きいだろうけど。


でも


細かく震える俺の指先を響輔は手で包んでくれて、それだけで少し安心できた。


これは知識がどうのこうのと言うのよりも、言葉では言い表せない


安心なんだろうな。



さっきは怒鳴って悪かったな。




響輔―――お前がいてくれて







良かった。






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