「お客様…周りのお客様のご迷惑になりますので…」


と、ウェイターがおずおずと注意しにきて、


「分かってるよ!」


俺はウェイターを睨み上げ今にも立ち上がりそうな勢いで腰を浮かすと、ウェイターはびっくりしたように…或は怯えたように後ずさりして


「戒さん落ち着いてください。警察呼ばれます」


と冷静な響輔が俺の両肩に手を置き、俺を座らせた。


分かってんよ!


ってか…どうなってんだよ!


朔羅が倒れたって…ついさっきまで元気だったじゃねぇかよ!


「とにかく御園に…」


言いかけてそのケータイを響輔が奪っていった。


「もしもし?響輔です。


一ノ瀬君、とりあえずタクシーを拾って、その近くに大きな総合病院があります。


〝御園医院”ってところです。行先を告げればそこまで連れて行ってくれるはず。


電話は切らずにそのままで―――」


響輔は俺よりも幾分か冷静で、


「戒さん、俺たちも行きましょう。御園医院まで。タクシーを飛ばせば三十分で行けるはず」


そう説明しながら席を立ちあがり伝票を手にした。


注意しにきたウェイターはまだ怯えた様子で…けれど店を出て行こうとする俺たちにほっとしたようだった。


「―――タクシーを拾った?―――ええ、行先は御園医院で。


着いたら総合受付で内科の鴇田医師に急患だと伝えてください。


『龍崎組のお嬢だ』と言えば大至急診てくれるはずです。


ああ、会計は一緒でいいです」


最後の言葉はレジに向かっている店員に向けた言葉で、響輔はケータイを肩で挟んでジーンズの尻ポケットから長財布を取り出していた。


「お会計¥1,260です。レシートご利用ですか?」


さっきの店員がおずおずと聞いてきて


空気読め、バカ店員!


俺はまたも怒鳴りそうになったが


「要りません。レシートも釣りも」


響輔はまたも冷静に答えて、電話に向き直った。


「一ノ瀬くん、お嬢の状態は?


痙攣は―――…ない?脈は…―――落ち着いてください……手首を握れば分かります。


呼吸は―――」


と、医者のような質問を冷静に繰り出している。


その間俺は大通りでタクシーが通らないかきょろきょろ。


時間帯が時間帯なのか、いつもはイヤと言うほど見るタクシーも今日に限っては何故か全然通らなかった。



こんな時に限って。


くっそ!何で通らねぇんだよ!!


焦りと苛立ちでどうにかなりそうだった。






朔羅―――






待ってろ、すぐ俺が傍に行くからな。