―――美しい


男だった。


ダークグレーの仕立ての良い細身のスーツに身を包んでいて、それがまたこの男の風情に良く合っている。



歳の頃は三十少し前って感じかしら。背も、推定年齢も、ついでに言うと上品な物腰も龍崎 琢磨と似たような―――


見たこともない男。


場所が場所なだけに新人のモデルか俳優かと一瞬思ったけど


でも新人のモデルも俳優も―――こんな高級なスーツを着れるものかしら。


それに、目つきが――――


この男の視線は“普通”とは違う。けれど鴇田や玄蛇のような燃えるようなヤクザの目つきとも違う。


この男の視線はまるで鋭いナイフを瞳の奥底に隠しているような――――


静かな


――――凶器


あたしは目の前に現れた男を、わけもわからず忙しなくまばたきを繰り返して見上げていると




「失礼。


私はこうゆうものです」





男はさっきのマネージャーに説明した言葉を繰り返して、


スーツの胸ポケットから何かを取り出した。


それは名刺なんかじゃなく



ドラマの撮影で一度だけレプリカを目にしたことがある。








警察手帳―――







だった。





なんてこと。






ネズミは









刑事だったんだ。