「はい。どぉぞ」


マネージャーが扉を開け、扉の向こう側で男の声が聞こえた。




「お忙しいところ失礼します。


十朱 一結さん、いらっしゃいますか?」





聞き覚えのない重低音は丁寧な口調だった。






ネズミ―――……の声………?




想像したより随分―――若い声だった。


低く響く声に重みがあって、でもどこか甘さを含ませた……声だけ聞くと随分セクシーな声に聞こえた。


けれどハキハキとした喋り方にそつがなく隙もない。


「youさんにお客さんですかね」とメイクさん(♀)が鏡越しにあたしに問いかける。


「さぁ……」


あたしは動揺を必死に隠して何とか答える。


「ええ、youはいますけど、どちらさま?」


マネージャーが警戒したように声のトーンを落とし扉の向こうの誰かに答え


「失礼、私はこうゆう者です」


名刺か何かをマネージャーに見せたのだろう。


ちょっとの沈黙があって


「少しお話を伺いたいのですが」


と、またも男の声。


「ま…待ってください!うちのyouが何かしたんですか!」


と今度はマネージャーの酷く慌てる声が聞こえてきた。


さっきの警戒するものではなく明らかに動揺しているような…


一体、誰が来たって言うんだろう。


ネズミは一体何者なのだろう。


マネージャーの制止も振り切り、男が部屋に入ってくる。


女優の控え室に強引に入るとか随分無粋な男だ、と常識的な部分で嫌悪感を抱いたけれど


それよりも不安の方がまさった。


あたしはぎゅっとテディとケータイを握り締め、


ドキン、ドキン!と心臓が激しく鳴る。




コツ……




上質な革靴が、それに見合う上品な音を立てて響いた。


フェラガモの黒い靴の先が見えて




「十朱 一結




さん?」





背の高い男が入室してきて、あたしは目を開いた。