あたしはテディを慌てて拾い、次いで鳴り続けるスマホを見た。


着信を確認すると「玄蛇」の“今の”名前が表示されていてあたしは思わず唇を引き結んだ。


玄蛇から連絡が来ることはあまりない。


だから少しだけ驚いた。


「なに?


あたしこれからテレビの収録なんだけど」


『もしもし』も何もなしにぶっきらぼうに出ると


『時間が無いから簡潔に言う。いいかい?


一度しか言わないから聞き零さないように』


と、向こうはそれ以上にそっけない。と言うか真剣そう。


……何。


何があったって言うの。


玄蛇の只ならぬ雰囲気に急に不安になった。






『ネズミの一匹が君の元へ向かった。


恐らく五分以内で到着する』






ネズミが―――





「何であたしのところに!!ネズミって一体何者なのよ」


てか何で殺さなかったのよ!時間はいっぱいあったでしょう!!


最後の言葉は飲み込んであたしが勢い込むと、あたしの髪を巻いていたヘアメイクとマネージャーがびっくりしたように顔を合わせて目をまばたいた。


あたしは適当な言い訳も返せずギリギリとスマホを握ると


『会えば分かる。


それよりネズミに私のことを聞かれても黙秘を通して。


それからケータイの着信はすぐに消すように。


それからヤツにケータイを渡すな』


いつになく真剣に、けれど淡々と言われたその言葉は命令口調だった。


でもそれをごちゃごちゃ言ってる暇はない。


「五分以内ってどうゆうことよ。


あんた、また近くに居るの?」


『まさか。私は仕事中だ。


テレビ局の監視カメラの映像をハッキングしてある。


私の顔認証システムでヤツの姿を捉えたまでだ』


顔認証システム……相変わらず歳のくせしてハイテクなんだから。


「とにかく分かったわ。あんたのこと黙ってればいいのね」


慌しく通話を切り、言われた通り着信履歴を消そうとしていると


それよりも数秒早く



コンコン


控え室をノックする音が聞こえた。




あたしは響輔がくれたテディと、ケータイを握り締め


ごくり


喉を鳴らした。