「べ、別に…!そんなことねぇよ!


お前と龍崎が別れたら、俺にとっちゃ願ったりのチャンスだしな!」


千里は照れているのか、赤くなった顔を逸らして慌てて言う。


千里の大きな声に、周りの人たちが興味深そうに、或いは迷惑そうにあたしたちを注目した。


カウンターに座った女の司書さんから「しー!静かに」と無言の圧力。


怒られたのと注目を浴びてしまったのが恥ずかしくて、あたしたちは揃って俯いた。


どちらからともなくペンを置き、やがて千里が切り出した。


「今日は勉強やめない?どうせ進まないし…


場所変えて話そうぜ」




――――



図書館を出て、歩いて駅まで向かう。


その途中で喫茶店でもあれば入ろうかと思ったが、近道のつもりで通った大きな公園は結構な規模でその付近に喫茶店どころかコンビニすらない。


二人で歩きながら、微妙な空気がいたたまれなかったのか千里はさっきの話の続きを繰り出した。


「さっきの…サ。


龍崎とお前が別れたら…って」


「え…?…うん」


突然話を振られてあたしはぎこちなく顔を上げた。




「そりゃ俺は嬉しいけどさ、


お前は絶対悲しいと思う。絶対泣くと思う。




俺はお前が傷つくのを―――見たくないんだ」





あたしが思わず足を止めると、千里も同じように足を止めて僅かに眉を寄せて振り返った。


「意気地なしでごめん。


勝手なこと言ってごめん」


千里は無理やり笑って頭の後ろに手をやった。