「さぁ、知らね」


あたしは俯きながら解けない問題をじっと見つめた。そうすることで解けるわけじゃないのに。


問題をシャーペンでなぞって、力を入れ過ぎたのか、その芯がポキリと折れた。


千里も、どうやらそれ以上詮索したらマズいと判断したのか、


「まぁ女子って色々フクザツだしな。色々あるよな、うん」


と自己解決した。


「言っとくが喧嘩はしてねぇぞ。あたしらは超仲良しだ。

こないだだって一緒に水着選びに行ったもんねー」


自慢するように言ってやると


今度は千里の方が慌ててあたしから顔を逸らした。


レポート用紙にピカソもびっくり!な訳の分からない落書きをしている。


「ぷ…プール俺も進藤先輩も誘ってくれてサンキュ…ま、まぁ考えりゃリコとはそこで会えるわけだしな…」


そう言った千里の顔は真っ赤で、見てるこっちの方が恥ずかしくなる。


千里とは―――小学生の頃、都営のプールに何度も一緒に遊びに行った。千里のおばちゃんが夏休みになると連れて行ってくれた。


だからあたしの夏休みの思い出は大抵、その決して大きくないプールと叔父貴と雪斗と眺めた花火大会だった。


でも毎年毎年飽きもせず『楽しかった』と言えるぐらい、あたしたちにとっては楽しい行事だったのだ。


でも―――あのときから心も体も成長したあたしたち。思春期真っ只中のあたしたちは、あの頃と同じ気持ちでいられない。


同じ景色の中、同じ感情を共有できない。





「宿題―――全然進まないな」





あたしは折れた芯の欠片を指で弾いて、シャーペンから新しい芯を押し出した。


「エリナでも呼ぼうかな」


あたしの独り言に、微妙な空気を回避したあたしの発言に少しほっとしたのか


「エリナって?」


と千里もいつもの調子に戻って聞いてきた。