「わりっ!」


千里は慌てて離れて、あたしも


「う、うん!」


ぱっと顔を逸らした。


抱きしめられたわけじゃない。


ただ


思った以上に千里の顔が近くにあってびっくりしただけ。





いつも通り―――は、やっぱり難しそうだ。




図書館の中は、外の蒸し暑さが考えられないほど冷房が効いていて涼しかった。


エアコン目当ての小学生たちが児童コーナーで騒いでいて、司書さんに注意されているところだ。


他にはいかにも受験生ぽい中学生や高校生、レポートでも書きにきたのか大学生の姿もちらほら、やっぱり学生が多い。


図書館の勉強コーナーは大きな木製の机が並んでいて、あたしたちは宿題のレポート用紙を広げながら、しばらくは会話もなくレポート用紙に大人しく向き合っていた。


だけど…


十五分ほど経って。


「分かんね。朔羅ここの問題解けた?」


「お前が分からないのにあたしが分かる筈ねぇだろ?」


「だよなー」


「「…………」」


結局、おバカ同士が集まっても進まない。


「リコを呼ぼっか。教えてもらおうぜ~」


我ながらナイスアイデア♪だと思ったが


「来るかな……リコのヤツ最近ノリが悪いんだ。遊びに誘っても全然ノってこなくてさー」


千里がシャーペンの先でこめかみを掻いた。


「え…?そーなの?」


「てっきりお前と先約があるから、だと思ってたけどそうじゃなさそうだし。


何て言うかサ、ホットケーキパーティー以来元気がないジャン?あいつ。


まぁ俺の思い過ごしかもしれないけど。


お前ら何かあったの?喧嘩したとか」


千里が心配そうに聞いてきて、


ホットケーキパーティー以来……と言う言葉にあたしは思わずまばたきをした。





その日はリコがキョウスケに失恋した日―――