あたしはもらった名刺を握り締め、
「すみません、あたし急いでるんで」
ぺこりと頭を下げ、その場から逃げるように走り去った。
「あ、ねぇ!!名前っ!」
女の人の声だけが追いかけてきたが、あたしはその声を振り切るようにひたすらに走った。
どうして…
どうして
逃げようとすると、まるであたしをあざ笑うかのようにその影はすぐ傍まで迫ってくる。
これがイチの言う“嵐”なんだろうか―――
あたしは都心のでっかいスクランブル交差点の中心でふと立ち止まって空を見上げた。
頭上には朝から続いた晴天。まるで白いキャンバスに青い絵の具を広げたような爽やかなスカイブルーが広がっている。
その空を一羽の鳥が大きな羽を伸ばして横切っていった。
一瞬だけ
あたしの頭上に黒い影が落ちて、その何か分からない鳥は空高く舞い上がっていった。
まるで真っ赤に燃え滾る太陽に吸い込まれるように。
その姿に―――炎を纏って羽ばたく不死鳥の姿を思い浮かべた。
あの龍神社の紅い鳥居。イチが持っていた数珠。
『かごの中の鳥は
いついつでやる
後ろの正面
だぁれ』
ふいにあの不吉な歌を思い出し、あたしは小さく身震いして
後ろも振り返らず慌てて走り出した。