響輔に指摘されて、俺の方が何だか恥ずかしくなった。


まぁな、と即答できるほどフェミニストじゃないし、かと言って否定もできない。


でも俺と同じだけきっと響輔も朔羅のことが大切で守りたいと思っているに違いない。


目の前で、瞳を伏せ物憂げな表情でノートに向かう男。


どんなことも無気力で無関心なこいつが、今必死になって謎解きをしようとしている。




朔羅のために―――




俺は設問④『クラブZのカジノ⇔コカイン』の文字を目に入れて


「ホントはさー……俺、朔羅をクラブZのカジノに連れて行きたくないんだ」


ぽつりと漏らすと響輔が俺の言葉に目を上げた。


「同感ですね。どんな状況にせよ危険が伴うのは分かりきってる」


「だけどあいつが必要なんだ。あいつの“目”が。


あいつが居なきゃクラブZの裏ポーカーまでたどりつけない」


「現にお嬢の“目”で助けられたことがありましたしね」


響輔もふっと小さく吐息をつき再び目を伏せる。


響輔が言っているのは以前御園医院で狙撃に遭った事を言っているのだ、と分かったが俺はそれに対して何も言わなかった。




「カジノでは何が何でも朔羅に傷一つ負わせねぇ。



ヤバイ状況になったら撤退だ。朔羅の安全が何より優先」




俺が真剣に響輔を見据えると響輔も無言で大きく頷いた。


「何が何でも守りますよ。彼女を」


俺たちは視線を合わせ、再び頷き合うとそれぞれ拳をかざし、空中で合わせた。





こうなったらとことんまでやってやるぜ。






だが、このときの俺たちはまだ知らなかった。


スネークとカジノ、アヤメさんと、謎の男タチバナの―――闇よりも深い因縁関係を。


その一見して何も共通点がなさそうなキーワードが、複雑に絡まりやがて明確な図が浮かび上がるとき





俺たちはすでに手遅れだったと気付く。





知らなかったんだ。



本当の意味で朔羅を失うと言うことに―――





気付いていなかった。






もしこの時点で未来が少しでも読める力が備わっていたのなら


俺たちは何が何でもオピウムの香りを纏うアヤメさんと、謎に包まれたタチバナの正体を先に暴くべきだった。






―――桜だ




顔の見えない男、タチバナは闇の中で桜の花びらを握っている。














 さ   く   ら    だ











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