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何を勘違ったのか、店長に早々に帰された俺。


まぁ、正直浮かれまくってて仕事どころじゃないがな。


旅行、どこへ行こうかな~♪


海?山??あんま遠くは足がないからな~


でも遠くへ行きたいな~。少しでも現実離れしてぇな。


よっしゃ。それだけの交通費も稼いだる。


それには絶対あのカフェをクビになるわけにはいかねぇな。


ようはヤクザだとバレなきゃいいだけのことだがな。


しっかし…ヤクザなことがそんなにいけないことなんかよ。


大体店長の好きな鴇田だってガチでヤクザだぜ?あいつがカタギに見えて何で俺がヤクザなんだよ。


俺は帰りの地下鉄に揺られながら腕を組んで、「む゛~」と唸った。


JRと違って地下鉄の外なんてずっとくすんだ灰色一色の壁で代わり映えがしなくてつまらない。


見ていてそれほど面白いもんじゃないな。


「それにしても納得いかない」


ガラス窓にしかめ面の自分の姿が映り、眉間に皺を寄せた俺……



ガチでヤクザだな…




改めて実感してしまってガクリ。


いや、ヤクザな自分を恥じるつもりはないし、隠すこともない。


だけど隠さなきゃ色々不便だ。


「世知辛い世の中だぜ…」


しんみりと呟いていると


「ねぇねぇ!あの子!超可愛くない!?」

「ホントだ!儚げな美少年!!や~ん…黄昏てる♪」


向かい側の窓際で女子大生ぽい女の二人組みが俺の方を見ながらひそひそ。


俺がそっちを向くと


「わ!聞こえちゃったかな」


と言って慌てて視線を逸らす。


儚げな美少年…ねぇ。(俺の独り言が聞こえてもそんな風に思えるか?)





ヤクザよりましか。


俺は再び窓の外を眺めた。


今は俺の見た目どうこう考えてる場合じゃないし。


それよりも旅行のことだ!♪


『次は有楽町、有楽町~JR山手線のお客様はお乗換えでございます』


場内アナウンスが聞こえてきて、


「やべ、次乗り換えるところだ。危ない危ない」


はっと我に返った。


トキメキ過ぎて乗り過ごすところだったぜ。