ここは
死んだ母さんの部屋だった。
息をいっぱいに吸い込むとあたしを愛してくれている人たちの…全部の香り、感覚があたしを優しく包んでくれる。
ガラにもなく難しい問題に一人向かっていたからかな……
何だか気が抜けてうとうと…
ベぃいいん…
弦を弾くどこか独特な…乾いているともしっとりしているともとれるような音色が聞こえてきて
それが三味線の音だと言うことに気づいた。
戒が弾いてるんだろうか。
そう言えば一回だけ戒と合奏して、そのまま押し入れに仕舞い入れてあったな。
あいつ、ああ見えて三味線うまいんだ。
そう言えば―――
雪斗もうまかったな。
そんなことを考えていると、三味線の撥が弦を弾く音がやがて音符を辿りメロディを奏でる。
それは戒の力強く弾むようなスピード感がある音ではなく、しっとりと上品だった。
~♪
『手にとりて見ればうるはし芥子の花。しをりしをれば
ただならぬ匂ひかうばし花びらの、散りにし姿、あはれさよ。
悋気する気もなつの花
もろき風情あり。たれに気兼ねをなんにも
はずじっとしてゐる奈良人形』
~♪
三味線に乗せられたその歌は
「芥子の花?」
(訳:触れて見ると、つんと端正な色気を消した芥子の花みたいな少女だが、手折り、手折ってみると、並みじゃな色気が香ばしい。
若い体が、男に手折られて散った姿がまた何とも言えない。
他の女に嫉妬することも知らない。夏の花のようなさっぱりした気性だが、情けを掛ける男にはすぐなびく脆さも持っている。
放っておけば誰に気兼ねをする訳でもなくいつまでも喋らず、じっと前を見つめている凛々しい白痴的美少女人形)
あたしが目を開けると、三味線をかき鳴らしながら唄を口ずさんでいたその人物があたしを覗き込むようにして身を屈めていた。
「やっぱり雪斗か――――」



